【映画】アーサーズ・ウィスキー【☆3】

タイトル
アーサーズ・ウィスキー
原題
Arthur's Whisky
制作年
2024
制作国
イギリス
監督
スティーヴン・クックソン
脚本
スティーヴン・クックソン、アレクシス・ゼガーマン
原作
なし

データベース
Filmarks | allcinema | IMDb

補足

  • 本レビューの下書き用雑記メモは『Filmarks』に記録している。(該当ページ
    本文は上記のメモをきちんとした形に書き直したものになる。とりたてて整えるところがなければほぼそのままのものをこちらにも書いている。
  • 作品の商品画像部分および楽天ブックスへのリンクのみアフィリエイトリンクになっています。どちらも楽天ブックスのアフィリエイトです。
  • 視聴日:2026/03/03(初視聴)
  • 評価:☆3

 


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きっかけ

 Amazonの100円レンタルにラインナップされていて、あらすじも面白そうだったのでレンタルしてみた。

感想

 若返りの霊薬(=ウィスキー)を創り出すという禁忌の技を成し遂げた直後、主人公の夫は雷に打たれて死んでしまう。妻は彼が何をしていたのかも知らなかったものの、その夫の作業小屋を若い頃からの友人たちと3人で漁っていたところ、不審な酒瓶を発見し、まさか密造酒を拵えているとはと思いながらもそれを飲んでみる。すると、もうすっかり初老かそれ以上といったところになっていた自分たちがピチピチに若返ることに気が付くのだった。以降、3人は若者に擬態して遊んでみたりもするのだが……といったコメディー寄りのドラマ──ではあるものの、あまりそこの設定から連想するドタバタに期待しても肩透かしになると思われる。本作は、徹頭徹尾、若い時分から今に至るまで気の置けない友情が尽きることなく続いている3人の女性たちの交友の眩しさを味わう作品なのである。作中、いろいろと展開はあるものの、とにかくこの点がすごくいいし、そこに尽きる。

 あと、わざわざそういう描写を挟んでいないだけかもしれないけれども、3人揃って少なくともお金には困っていない類の上品で綺麗な女性なので(上流階級とまではいかないけれども、中流の下=下流の上の方には収まるだろう程度? 取りあえず、新しく服を買おうとか遊びに行こうとか、高級な物を買うのではないにしても何かするにあたって金銭的な躊躇いが生まれにくいくらいの立ち位置である)、そこで良くも悪くも、その友情にしろ、行動するにあたっての色々の負担に対しても同じラインに合わせられて安定して付き合えているし、何か見えないところで遣り繰りしているにしても行動がさっとできているという大前提はある。誰も貧しさが障壁にはならないという大前提であり、そこは本作でもやや皮肉的に捉えているところもあると思うし、そこを弄しつつ彼女たちの時代の女性の立ち位置というものを描くことに用いているところもある(昔は家を買うときにもローンがこれくらいで済んだとか金銭的にいかに優遇されていたか、でもそれは独り身の女の場合どういう障害が生じていたかとか、結婚してからは恐らくはおよそそのまま専業主婦になるしかなかったというところだとか)。
 時間限定だしウィスキーの残弾に限りがあるけど、若返れる!じゃあいろいろしてみよう!ってなれるのって、そうやってできるだけの余裕は少なくともあるということでもあるよなあとは本作を観ながらずっと思っていた。終盤は思い切って投資信託だったか株だったかの貯蓄だとかもいろいろがっつりと崩して、いざ思い出のカジノの街へという展開を見せてもいたけれども、それにしてもそうやって思いきれるだけの算段をつけられる余裕はあるということなので。移動の自由があるって、それだけ生活に余裕があることの現れなので……。彼女たちの交友の眩しさはそういう安定感の下で、少なくとも本作で描かれた範囲から推定するには、成り立っているものでもあるというか。そして別にこれ以上余裕がある層の話も、貧しくてカツカツの層の話も、3人がそこでグラデーションがあるところも別に制作側は取り扱うつもりがなくて、あくまでそういうつまずきは完全に取っ払った上でこの女たちの話をただ率直に描きたかったのだろうから、そこをネチネチ言うつもりもないのだけれども。いや、だいぶネチネチ差し込んでしまったが。
 年齢という数字的なものに左右されるというよりかは、若さというのはいかに視野にゆとりが持てるかだと思うみたいな、おおよそそんな話もされていて、それはやはりおおよそは言っていることは分かるのだけれども、本作の設定だと生活に余裕のある状態のマダムたちが主人公なのでやや皮肉にも映るところもあったりして……。そういう、あんまりネチネチと捉える話じゃないんだけどもね。主人公の一人が、老人の姿のままでカジノで初対面の人とどっしりと構えて会話を弾ませていたときに、「新しいものにも視野を狭めずに保守的になり過ぎずに取り組んでいけるところが若さなんじゃないかな」みたいな話をされている箇所にしても、それはそうというのは分かるんだけど、そうやって飛び込むのって当人が内情としてどうあるかとかだけじゃないいろいろの要因だってあるんだよなあというか。結局、いかに余裕を持てているか、安心できる環境にいるかというのが老いも若きにも視野を広げておくのに必要だよねというところに話があるわけなんだから、この描写で大事なのはそこなのだけれども。で、そこをあくまでそこにさして外因的な障害がない女性たち(もちろんだからといって何らの障害もないわけではないんだけど)を主人公にしたところに本作の特徴があるとも思うというか。

 何はともあれ、オールドミスの上品さはいかにもザ・富裕層というわけではなくとも、住まいや服からもずっと表現されている。よくよく見ればそれでも3人の間にその質的なものの差が生まれていることも伺えるものにもなってはいるのだが、繰り返すように別にそこがどうにも障害化まではしない程度の差でもある。とにかくそんな感じで三者三様にいろいろ違いはあれども、概ね、いかにもイギリスないしは欧州らしい品のいい服を着ているので、ぼちぼち服を見るのが好きな身としてはそこでも楽しめていた。
 若者になれたときに手持ちの服ではどうにも古い感じが違和感になってしまうらしい、質のいい服よりもそこが引っかかられてしまうらしいということに気が付いた後は、若者の服を購入してみて着てもいるのだけれども、確かに先ほどまでの服とは素材感の違い、服の縫製から出るシルエット感の違いみたいなものが薄っすら伺えるものになっていたのも面白かった。若い時の姿と現在の本当の姿とで、普段着ている服と若い時に着る服のどちらも着ている場面が映ることが多いので、よりそれぞれの姿で互い違いに着たときの印象の違いや何とも言えない違和感(※目も当てられないほど見れたものではないというわけではない)みたいなものを観ているこちらにも伝えられるようにしていた。着こなし方の問題もあろうけれども、なるほどなあとやや客観的に服装と年齢というものを意識できるところがある。若者のときの服装にしても結局のところ、別にその年代を生きている女性がリアルなものとして取り込んでいるわけではなくて、高齢の女性が真似ているだけではあるので、そういう雰囲気も薄っすらと伝わってくるものでもあったのだけれども。結局、その人の今の好みに則ってしまうというか、結構そういうところに落ち着く感じも、別に映画としては強く主張してはこない描写箇所ではあるのだけれども、好きなところだった。

 あとやっぱり3人の友情がとにかく眩しい。
 若返りみたいなものに別に度が過ぎた執着を抱くことはなくて、限りあるソースを奪い合うことももちろんなくて、ちょっとした棚から牡丹餅みたいなくらいの認識で3人の中でゆるゆるとあくまでちょっとした冒険的な楽しみのためにこれを用いて、自分の今の人生を否定する気はさらさらないくらい満足してはいるけれども、ちょっとだけ残してしまった後悔を解決するための糸口として利用する。一人、また一人と、自然と現在の自分の肉体を受け入れていって、若い肉体に固執することもない。彼女たちはずっとどんなときでも3人でただただ遊んではしゃいでいるだけであり、3人で同じ時を楽しんで過ごすこと、それこそが大事なことなのである。だいぶ健全な友情というものがこれでもかとEDまで描かれているものだった。
 気持ちの整理をしたりとか、何かが進展したりだとか、本作を通じて起きる変化みたいなものもあるけれども、それにしたってウィスキーなんてなくてもきっと3人は少し形を変えつつも叶えていただろうことで、元々3人は芯の通った人として今を生きていて、うち1人が病を受け入れてただ悔いはできるだけ残さないように生きて死んだように、これから先も彼女たちはそうやって生きていく。若ければどうであるではなくて、今を生きていく。友の遺言ならば、スカイダイビングして遺灰を空へと解き放ちもする。その羽ばたきの強さ。

 というわけで、いろいろ書きはしたけれども、ずっと眩しい作品でした。人生に対して、「いろいろあるけど」と前置きしつつもとにかく前向きで爽やかな映画だと思う。
何はともあれ、トモダチ……かあっていう作品でした。ぼっちは心で少し泣きました。

 あと、なんかちょいちょい要素要素で謎の既視感に囚われてたんだけど何なのだろう。近年の作品だから昔見たことがあるとかそんなんではないのだけど。なんか本当にちょこちょこ妙な既視感があったのだけれども。